経営支援

投資後の経営支援のやり方にはいろいろな意見があると思う。スタートアップはリソースが乏しいし、仕組みもあまり整っていないというのが常である。いろいろな営業資料や社内規程を作ったりすることもあれば、組織作り、戦略、採用、といった大きな仕組みづくりの支援をすることもある。ただ、重要なのは真の課題を拾うことだと思う。本当の課題は表面には現れていないことが多い。それをを拾うためには、経営者との対話を重ね様々な課題を整理して本質的な問題がどこにあるかに気づき・気づいてもらうことが必要となる。それが見えてくれば、解決のためのプロジェクトを考え時間軸や実行者を選定し回していくということができる。

一度、これが問題だと思って取り組もうとしていたことがなかなか進まず困ったことがある。これをやりましょうねと経営者とは合意するのだがその後なかなか手がつけられないのである。経営者は山のような課題とやることを抱える中で優先順位をつけながら物事を行っていかなくてはいけないので本当の課題と思っていなければそれは後回しになっていく。そんなことだったと思う。

私はこれまでスタートアップを支援する中でいろいろな経験をさせてもらったと思う。規程作り、社員採用、組織体制作り、戦略策定、事業撤退を含む事業の整理、財務、予算策定、販売など。また、多くは人間関係問題の悩み相談だったり、コミュニケーションやミーティングのファシリテーションを行ったこともある。

いずれの場合も、取り組み始める前に経営者や関わる人の納得感を作れるか、そしてその場しのぎの対策ではなく長期的に役立っていくものを作れるかが重要だと思う。

インパクト投資のジレンマ

先週、社会的投資を行っている投資先との定例会で今後どのようにインパクト/事業を拡大させていくべきかという話をした。

投資の活動自体は投資担当者など人が行うものであり、投資後の経営支援など一件の投資にかけるリソースが多くなればなるほど人への依存性は高まり”人”がボトルネックとなる。では、人を容易に増やせるかというとかけれる資金の問題であったり、能力を持った人を集めれるかという問題がありなかなか難しい。

一件の投資にかけるリソースをなるべく減らしたくさん数を打ち、その中で一件、二件の大成長を狙うという方法も考えられるが(VCでこういうモデルを採用しているところもある)、社会的投資の投資先に多い地域や社会に影響が大きいような投資先の場合そういった目線で投資を行うことが良いとは思えない。

一件あたりの投資金額を大きくするというのは一つの方法。金額を大きくするということは、それを受け止めれる投資先を対象にするということであり、つまり投資先の規模(人数など)が大きくなる。自分のところで増やすことが難しい人的資源を投資先の方で増やそうということである(自分のところの問題が資金でないという前提だが)。または、投資先側で人を増やすのではなくテクノロジーを活用するという考え方もある。人を増やすのではなくテクノロジーで代替できる仕事であればレバレッジをかけた成長が容易となる。ただしこれは(少なくとも現在では)人の創造性や能力に依存しないような、テクノロジーが担える仕事の枠組みが必要。投資という仕事では中々難しい面があるが投資先にそういう企業があれば投資のインパクトを大きくすることができる。

投資金額を大きくする以外に、今のところ考えられるのは、他者との協業というところだろうか。能力を持った人が他者にいるという前提が必要となるが、他者と協業しすることで拡大というものは可能になるかもしれない。

こういった議論は、私の前職でも行ったことがある。投資金額を大きくするという議論があったのを覚えている。過去に私が働いた組織では、投資金額を大きくする方向に舵をきったところもあった。世界のインパクト投資やベンチャーフィランソロピーの業界ではこれが大きな流れとなっている。こういう戦略をとるところが出てきても良いのだが、そのまじゃくに合わなくなってくる企業や団体はどうなるのかという点はエコシステム全体として考えなくてはいけないのではないだろうか。

決断するということ

決断するということはとても難しいことだと思う。どんな決断でも誰にも影響を与えない決断というものはなく決断した後人に与える影響を考えざるを得ない。この影響を与える範囲や度合いが大きければ大きいほど決断は難しくなる。

また、決断するためには決断に関係ないことを考えないことも重要だ。さまざまなレベルでの悩みや葛藤が生じてくるが、その時しようとしている決断には関係ないことは考えない。先送りにしているようにも聞こえてしまいそうだが、決断すべきことを先送りにするのとしなくて良いことを先送りにするのとのは全く違う。決断するというのは非常に消耗することで、次から次へと大小問わず決めなければいけない環境にあっては決断に関係ないことを考えないことも重要。

また、一人で何かを決めれるということも少なく、関係者の合意形成を図っていくことが重要となる。決断自体の重要性もさることながら、得てして決断のための合意形成のプロセス自体が重要であることが多い。正解はない中、関係者が腹落ちして決めたことを実行しようと感じてくれることが重要である。

私は、1サイドを取ることが得意でなかったが、良く考えるようになってからは比較的やりやすくなった気がする。客観的に状況を分析し、主観的な考えを入れてみる。入れた主観的な考えが成り立つロジカルな説明ができるかを考えてみる。

最後に、とても大事であるのは決断する人が安全な環境にあるということ。決断に限らず創造性を発揮したりするのもそうだが、安全な環境にないとそういった力を発揮することは難しい。起業家支援の重要な部分にはそういった環境をつくることにあるのではないかとも思ってしまう。

インパクト投資とロジックモデル

インパクト投資の世界にロジックモデルという手法がある。私が大学院時代に学んだKellogg Foundationの資料がよくまとまっており、日本語だと日本財団が出している資料も分かりやすい。ロジックモデルでは組織の活動が影響を与える受益者ごとにInput, Activity, Output, Outcomeといった要素に分け、それらがどのように起こっていくのかをロジカルに捉え表していく。現在の活動や影響だけでなく未来におこるべくことも考えて表す。

インパクト評価という言葉がNPOや社会的投資の世界でもより一般的に使われるようになりロジックモデルを見る機会も多くなったが、使われ方には大きく二つの流れがあると感じている。1つ目はできるだけ精緻・正確に組織活動が与えるインパクトを表そうというもの。二つ目は、精緻度よりも組織の意図や方向性を明確にしようというもの。

私が実践してきたのは主に後者だ。営利、非営利に関係なく、組織のVision、また特にそこに至るまでのステップや目標というのは必ずしも経営者自身でさえ明確にもててないことは多い。ロジックモデルの一つの利点はそういったことを言語化していくことで組織が向かうべく方向を明確化し経営者また関係者で本当に理解することにある。

正確性というのは時として重要であるが、そこにとらわれすぎると、評価できる活動とできない活動があるのではないか、主観的になるのではないか、作ったロジックモデルから活動が逸れ内容にこだわるべきではないかいった議論に陥ることがある。正確性を追求することが目的となり、組織経営に活かして活動を改善するといったような本来の目的とから離れてしまう。

どんな世界を創りたいか

投資先を通じてどんな世界を創りたいかと考えることがこの仕事の大変な点でもあり醍醐味の一つだと思う。事業を創っているのは起業家や社員の方たちで彼らが主体であるのだが、主体性なく彼らに乗っかるのではなく、彼らの描いているものを感じながら自分としてどういう世界観を作っていくかということが大事だと思う。投資家と起業家がお互いにその世界観に共感した時に投資や経営支援が実行され本当に意味のあるものになっていくと思う。逆に言うと、そういったもの無くしては損得やマネーゲームのような話になってしまい本当の意味での協業はできない。

上記を表すものとして、投資前に投資先候補の起業家に意向表明書を書いたことがある。英語ではLetter of Intentとも呼ばれる。朝6時から近所のスターバックスにこもり、自分が理解した起業家の世界観、自分たちの持つミッションと世界観、そのためにすべきことととこちらから提供できることなどを書いた。それまでもLOIはたくさん書いたことがあったがもう少し形式的だったりテクニカルなものが多かったように思うが、その際は主観を込めて書き起業家からも受け入れられた。

世界観というところでもう一点書くとすると、インパクト投資やVenture Philanthropyを通じて何が作りたいかという視点も大事だと思う。同じような仕事を続けていくと、なんのためにやっているんだろうと思うことが出てきたり、どんな仕事に取り組むべきかと考える時に主体性がでてこなくなったりもする。時々一歩引いて、大きな視点や長い時間軸でものごとを考えることで行っている仕事の意味やその先に創りたいものが見えてくることがある。

仕組みづくりとソフトサポート

起業家支援には大きく二つの側面がある。

一点目は、仕組みを作ること。スタートアップは想いをベースに仲間で始めていることが多い。そこに新たな社員が加わり、売上が作られていき、オペレーションが複雑になってくると、戦略構築、数字の管理、評価や権限分担など組織の管理など仕組みづくりが必要になってくる。オペレーション面だけではなく、会社のビジョン・ミッションやそのためのステップなどを社員全員で共有するためにも、伝える術としての言語化が必要となってくる。

二点目はソフト面でのサポート。想いが強い人が集まるまた、日本のNPOの場合は、企業に比べて決して高水準とはいえない報酬体系(これを変えるべきであるという別問題はあるが今回の論点から外れてしまうためここでは書かない)、IPOなどの将来の大きな報酬の可能性を見込めず、事業や起業家に対する想いで働いている方が多い。
想いが強い人が集まり他に縛るものがないだけにしばしば衝突も避けられない。また、比較的経験が長くない方が多いことも手伝い議論を深めていったり合意形成を行っていくことに長けている組織も稀である。組織内のコミュニケーションが円滑に進むためのサポート、MTGのファシリテート、社員のモチベーションの向上と持続が必要となる。

私は上記は車の車輪のようなものであり、どちらか片一方だけでもうまくいかないと考えている。二点目はタスクベースでの切り出しが難しく専門家やコンサルタントに部分的に行ってもらうこともできないという点から難易度が上がる。ソフト面でのサポートは第三者にはできないという人もいるが、逆に第三者にしかできないこともあるのではないかと思う。当事者同士では感情面なども手伝って難しくなっているコミュニケーションをつなぎ合わせてあげたり整理したりしてあげるのは第三者にしかできないことだ。

また、これを行うためには信頼関係の構築が非常に重要となる。ロジックや仕組みだけではなく、本当にオープンになってもらい人間関係を変えていくためには、安心・安全にものを言える環境があり、本当に抱えている課題を共有してもらい解決策を共に考えること。

私の起業家支援を振り返ると1点目はもちろんだが、2点目を得意としていたのではないかと思う。また、前職を退職する際に一緒に仕事をしていただいた起業家に自分の価値みたいなものについて聞いてみた。戦略づくり、数字づくりや人材採用など仕組みづくりも結構行ってきたのだが、意外とそういった面は出てこず、なんでも相談できた存在や許される空気を作ってくれたといったようなソフト面があげられることが多かった。

仕組みづくりだけでもなく、コミュニケーションコンサルタントでもない存在になれるかどうかが起業家と組織を支援するには重要であり、自分はそういう存在でありたいと思う。