社会企業と新たな投資手法

最近、シリコンバレーなどでも売上連動型で投資家に利益配分を行うスタートアップ投資が行われていると聞く。

投資ファンドなどの従来のビジネスモデルはマネジメントフィーとキャリーが主流だ。マネジメントフィーは、ファンド金額の◯◯%/年、キャリーは売却した保有株から出るキャピタルゲインの◯◯%といった形でファンドマネージャーは報酬をもらう。

このやり方は、大きな資金規模を必要とする企業やいわゆるユニコーン型の企業向けの投資には合っていると思う。一方で、昨今出てきている社会企業やZebra企業(zebraについては別エントリーを参照)への投資には合わないように思える。急激な成長をえがかないそのような企業だと投資ファンドがキャリーを十分に受け取れなくなり、ファンド自体の持続性に関わってくる。では、そのような企業へ資金を供給するにはどうすれば良いのだろうか。現在は、いろんな試行錯誤が行われていると理解している。アメリカなどで良く聞くとレベニューシェアもその一つだろう。

レベニューシェアの場合、売上をシェアしていくというものなので、企業価値が上がったら投資家に一気に分配するのではなく、成長と共に徐々に分配していくイメージだ。考えたいのは、どの時点から分配するか。通常の投資の場合、投資家としても企業価値をあげることにコミットしているためそれが上がったら利益配分を受けるというのはわかりやすい。例えば、まだ会社に売上がない状態で売上を作ることにコミットしているのであれば、最初から分配ということもありえるが、ただ、その場合、会社は赤字なのに分配をしていくということになる。例えば、キャッシュフローが黒字化したらとか、その投資家との間で目指す売上額など一定の指標を置いて、指標をクリアしたら分配を始めるという方がコンセプトをにもマッチするし投資家にとっても起業家にとってもフェアに思える。

いろんな企業が出てきつつある中で資金供給側もいろんな形があって良いのではないかと思う。

起業家との信頼関係

投資を行うにあたっては当然だが起業家との信頼関係が重要だ。限られた期間とはいえ少なくとも数年、場合によってはもっと長い期間を一緒にやっていくことになるのだから当然だ。また、投資後の経営支援を考えると自分の時間を相当使うことになる。

信頼って何か、どうやって見極めるのかはとても難しいが、私は二つの軸を持つようにしている。まずは、その人を信用できるかどうか。これはきちんと約束を守れるか、任せたことを行ってもらえるかといった基本的な部分だ。ただし、それ以上に重要なのはもっと人間的な部分。短期間の仕事を任せるのであれば極端な話、信頼がなくても信用があればお願いできるのだが、長期間付き合うとなるとこちらが重要になってくる。それを知るためには、想いやvisionについて教えてもらったり、価値観や人との付き合い方など、人としてその人を知ることを大事にしている。

これは一朝一夕にできることではないので、起業家とそれなりに時間を一緒に使うことが必要となる。抱えてる悩みの壁打ち相手になったり、一緒に事業について考えたりしていく中で、そういったことを感じてくる。投資前に行うデューデリジェンスにおいては財務などのtangibleな情報の精査も重要だが、信頼関係を構築できるか、長い期間をご一緒できるかといった点をお互いに確かめ合うにも有用な期間だと思う。

こういった「ソフト」的な面をどの程度重要視するかは、投資家によってバラツキがあるのではないかと思う。私が属していた組織では日本でも海外でも同じだった。ある時には予算作りを毎晩夜中まで一緒に行ったり、ある時には将来について話したり、いろいろな形で起業家と一緒に時間を過ごした。そういう中で信頼関係を築いていったと思う。

「リーダーシップ」、「マネジメントチームの信頼性」などいろいろな言葉が使われるが、起業家と仕事をする上で、さらにいうとどんな仕事においても重要な点ではないかと思う。

インパクト投資とキャリア

先週末インパクト投資の仕事をしたいという20代の人からキャリアについて相談を受けた。彼はアメリカの大学を卒業後コンサルティング会社で仕事をしてきたが、自分のやりたいことはインパクト投資業界にあると思っているとのこと。

彼によると、世界各地で活躍している同世代の日本人同士でグループを作って意見交換を行う場を持っているとのことだった。

私がこの業界に飛び込んだ5ー6年前には少なくとも日本では私の周りではそういった”thinking alike”な人がいなかった。当時の私はビジネススクールの友人や世界と日本の状況のギャップを感じつつ、だからこそ海外に行く決断をしたのだが、彼の話を聞くと時代は変わってきたのだなと思う。

業界に人材が入ってくるようになれば、成果を高めることもでき、資金の流入にもつながり、しっかりとした業界として成り立つようになってくる。何のためかわからないけどお金を多くもらえるからといった軸だけで仕事や人生を決めるのではなく、違った軸を持って人生を歩む人が増えると良いなと思う。

組織作り

組織が成長してくると新たに人が関わるようになる。創業期のメンバーとは違ったモチベーションや考えを持つ人もでてくる。そういった時にどうやって価値観の違う人に同じベクトルを向いてもらい一致団結して事業を行っていくかは多くのスタートアップがいわゆる第二創業期と呼ばれるフェーズに入る際に持つ課題ではないかと思う。

私は、過去にこういった組織をご支援させてもらったことが何度かある。中には、成長に伴って一気に1/3近い新社員を採用したケースもある。問題の種類は違えど、どの組織も何かしらの課題が起きた。創業時からいる社員と新しい社員の意識の違い、意志決定のプロセス、経営陣と社員の距離感などが挙げられる。

仕組みが必要な場合もあれば、仕組み以上に社員同士の距離感を縮めたりコミュニケーションのあり方を変える必要がある場合もある。ただ、ほとんどの場合は両方が必要になると思う。創業時の少ない人数だと阿吽の呼吸や暗黙の了解でできたことがそうはいかなくなる。そうなると明文的なルールやフローが必要となることもある。ものごとが上手く回らないと人間関係がギクシャクする場合もある。そんな時に第三者的な人が話を聞くことが必要な時もある。

また、個々が持つビジョン、モチベーションややりたいことを上手くまとめていくことも必要だ。ただし、気をつけたいのは完全に同一化させようとしないこと、大きな方向性は同じ方向を向いている必要があるが、完全に同じである必要はない。重要なのは、重なり合う部分がありそれを認識できることだと思う。

アーティストと起業家

アーティストと起業家には共通する面が多くあると思う。特に強いパッションを基に何かを創り上げるという点は似ている。

私はYagullというアーティストを支援している。バークリー音楽院を首席で卒業しピアニストとギタリストのユニットで、二人はhug musicという音楽教室も経営している。彼女たちの持つ想いやビジョンの言語化を一緒に行った。ビジョンやコンセプトを言語化し、相手の持つintentionをクリアにしていく、また、そのために必要な道筋を考えるといったことは起業家支援と通ずる点だと感じた。

また、先日東京で行ったライブコンサートでは、アーティストと相談し、彼らの奏でる音楽に説明を加えることでオーディエンスにイメージを沸かせてもらいやすくし曲への共感度を高めるといったことを行った。プロのミュージシャンともなれば音楽を聞くだけで曲の良し悪しや共感度を高めることができるのかもしれないが、一般の人には曲の背景を知ることで入り込み方が変わり距離感をぐっと縮めることができる。

マーケティングや販売、規模が大きくなってくると管理面なども考えなくてはいけない。まさに企業の成長過程と同じである。もともと起業家支援とは違った文脈で始めたが、本質を見ると、世の中のラベリングとは関係なくいろいろなことが見えてきて面白い。

Yagull: https://www.yagull.com/
Hug Music: https://hugmusicny.com/

Zebra企業とインパクト投資

昨年、オックスフォード大学で行われたSkoll World Forumに参加した際に、Zebra Unite Groupの方達と知り合う機会があった。先日、News PicksでもZebraについて書かれた記事を見つけ思い出した。

詳しくは、別のBlogでアップされる予定なのでそちらをご紹介したいと思うが、簡単にZebra企業について書きたいと思う。

スタートアップ業界において、急成長する企業はUnicornと呼ばれる。過去にはFacebookやUberなどが代表例だ。Unicornを狙って投資家も投資をする。どこにUnicornがいるかわからないので、多くのスタートアップに資金を出しUnicornが出てくれば投資家も大儲けできるというのがスタートアップ業界のVCの多くのモデルだと思う。

これを否定するつもりはないが、では、Unicornではないがきちんと収益をあげる企業に資金がいきわたるようなエコシステムとなっているのだろうか?短期間で大儲けは狙わないが、堅実に収益を上げているモデルの中には社会やステークホルダーへの影響を考えながらビジネスを行っている企業も多い。

Bridges Ventures U.S.のパートナーと話をした際に、アメリカでもこういった企業への資金の需要と供給にギャップがありまたそこにビジネス機会があるのではと考え事業を始めたと言っていた。

VCファンドもしくはその投資家にとって必要な投資先のスケーラビリティの確保が難しくなってしまうが、スケーラビリティに代わる価値を提供できたらそこに資金を出したいと言ってくれる人はいるのだろうか。またそれはどういったモデルになるのだろうか。

違ったコミュニティに繋がっている価値

違ったコミュニティにつながっていることが価値になる。先日クライアントとのMTG中にでてきた話。教師を派遣する教育事業を行っている組織で、派遣する教師へのサポートとしてあがったアイデアだ

また、別の人との別のMTGでも同じような話があった。自分がcomfortableと感じれるコミュニティにいることが重要という話。高度経済成長時代は特に仕事に関しては一つの場所で効率的にまた多くの時間を使うことが良しとされていたし、そうすることで企業も国も成長し国民は豊かになっていった。教育制度もそういった考え方をベースに設計されたのではないかと想像する。今後は企業にもより新たなビジネスチャンスを創ったりすることが求められていく中、皆に一様に自社で多くの時間を使ってもらうことではなく外からアイデアを持ってきたりすることが求められる。多様な働き方が認められてきている要因にはそういったこともあるのではないかと思う。

私自身もいくつかのコミュニティにつながっていて違った業界やテーマであっても共通することは多くありアイデアや考え方を活かせることがあると感じる。そう思うとコミュニティ創りというのはとても興味深い。

インパクト投資と事業計画

事業を作っていく過程において事業計画作成は非常に大事なパートだと思う。起業家や経営陣が何を目指しているか、それをどうやって達成しようとしているかを具体化することができる。多くの人にとっては、自身にとっても言語化や数値化することで見えてくることがたくさんあるし、他人にとってもその人の考えがわかるようになる。

インパクト投資においては、事業性を見る上では通常の投資と変わらないポイントを見るがそれらに加えてそもそも解決しようとしている社会課題やその企業の創ろうとしているインパクトという点も見ることになる。具体的には下記のような点がポイントとしてあげられると思う。

1.社会課題と御社のミッション・インパクト(Theory of Change、Logic Model)
2.事業内容・事業戦略
3.組織
4.資金
5.数値事業計画

1.にあるTheory of Problem/Changeは、そもそもどういった負の連鎖や社会課題があるのか、どこをどのように変えれば負の連鎖が変わっていくのかといったことを定義するもので企業のビジョンやミッションに近いもの。Logic Modelは、企業の活動が各受益者に与えるインパクトを一定の時系列のもとに整理するもの。最終的なアウトカムが社会レベルでのインパクトとなりビジョンやミッションに近いものとなる。( 慶応SFC研究チームによるTheory of Changeについての説明:https://www.kri.sfc.keio.ac.jp/report/project/2007/5/5.html )

これらをきちんと作成するとVisionやミッション・そのための道筋的なものが見えてき、それらを達成するためには何をすべきか(戦略)、その戦略を実行するためにはどういったリソースが必要か(組織・資金)、それらを表した数字(数値事業計画)といったことを説明できるかが事業計画作成のポイントとなると思う。

チーム作り

チーム作りは非常に難しいと思う。創業時の仲間から新たに人が入ってくるようなフェーズになると、必ずしも創業時の思いを100%ともにしている人たちでもなくベクトルを合わせていくのはとても困難で大変なことである。

私がこれまで支援してきた企業や団体でもそれぞれにチーム作りには苦労していた。急拡大したがために古いメンバーと新しいメンバーでの価値観の違いが現れたり、ベンチャーがゆえに柔軟さをもたせてきたところもあり統一されたルールがかっちりあるわけでもなくさまざまな確執が起きたこともある。また、経営側(特に代表)がものごとを決めすぎ、透明性にかけていたため現場との距離感が離れすぎていたこともあった。

こうすれば正解というやり方があるわけではなく、場面に応じて必要とされるものが変わってくる。ルールや意思決定プロセスのような仕組みが必要な場合、コミュニケーションのやり方の変化が必要な場合、意識合わせが必要な場合とさまざまで柔軟に対応しなくてはならない。

多数のメンバーで合意を形成していくというのは非常に難しいが、それを行おうと思うと、一度感情的なことも含めて本音を出し合うこと、その上で合理的なプロセスを皆がオーナーシップを持って作ることが関わるメンバーが納得感を持って合意を形成していくのは重要ではないかと思う。

主観性と客観性

仕事においては、主観性と客観性を持つことが大事だと感じる。まず、現状に関して客観的な情報をなるべく多く集め、いろんな角度から考えてみる。ただし、客観的分析だけではものごとは決まらない。もちろん、客観的にいろいろな要素を分析することは非常に重要なのだが、客観的に表しきれないこともあるし、客観的分析を経た後に主観的に一方の立場をとったり何かを決めたりすることでものごとは進むし議論を行うこともできる。

昨日、インパクト投資における投資基準について議論する機会があった。インパクト投資において、投資先が作ろうとしているインパクトや社会性というものは客観的にすることが非常に難しい。でてきたインパクトを客観的に測るということはできるかもしれないが、起業家や社員の人たちが作ろうとしているインパクトというのは彼らの意図でありとても主観的なものだからだ。ただ、ここで重要なのは客観性にこだわることではなく、起業家の意図にいかに共感できるか、同じ世界を作っていこうと思えるかという極めて主観的なものとなると思う(これはインパクト投資に限らないと思うが)。

可能なかぎり集めた客観的な情報をdigestした上で、決断/判断をする際は主観を持ちさまざまな人とその主観をぶつけ合い決めていく。こういったプロセスを行ってものごとを決めていくことを私は過去に学んだが、こうしたプロセスを経ることができないと決断への責任感がなくなり誰が決めたのかわからなくなってしまうのかなと思う。