インパクト投資とマイルストーン投資

マイルストーン投資は投資する際によく使われるが、その性質、特にマイルストーンの置き方について考えてみる。

インパクト投資の場合は、社会成果をマイルストーンに置くことがあると思うが、取り組むビジネスや提供資金の性質によって置くべきマイルストーンを見極める必要がある。

企業投資の場合、事業は複数あることがほとんどで、特定の事業があり使うリソースなどもある程度決まっているプロジェクト投資や助成金とは違ってくる。企業投資はそういった資金では拠出目的としにくい間接経費などの先行投資に資金を使うことが可能。ただしこの場合投じた資金によって現れる社会成果の前に、組織づくり、PMF、システム構築など踏む段階が多岐にわたりより複雑になる。おそらく、その中でどこに投資するのが成果をあげるために最も効果的なのかということを投資家と起業家の間で見極めながら資金使途を考えていくことが必要(デューデリジェンス)。この場合、投じた資金がダイレクトに特定の事業に使われるものではないため、現れる成果の距離が遠くなりマイルストーンの置き方は難しくなる。

いわゆる受益者を軸とした社会成果をマイルストーンに置くことも可能だと思うが、その場合次回投資決定の際には目標達成したかどうかという単一的な見方ではなく、投じた資金が効果的に使われたのか、そうでないならその原因はどこにあり次回投資を行うべきかどうかといった総合的な判断が求められると思う。

環境を創る

ある人と社会を変えるには環境を創る力が重要だと言う話をした。環境をつくるって定義が難しいが、一つのことを専門的に極める力ではない。関係者とのコミュニケーション力、相手のモチベーションを向上させる力、共感力、傾聴力といったいろんな要素が絡まって関係者が力を発揮できたり成長する環境を創っていく。

私はこれまで特に早い段階にある組織の組織づくりに関わってきたが、上記は組織づくりに通ずるところがある。個々の集団や強いリーダーが組織を引っ張っていく、ルール形成や組織としてどう力を発揮するかガバナンスを含めた仕組みが作られ、個々の成長、組織間や個人間のシナジーを促す仕組み作りが必要となる。第一成長期、第二成長期といった感じだろうか。ビジネススクール時代の友人で卒業後アブダビでスタートアップをCOOとして成長させた友人が自分のやっていることはウィニングチームをつくることと言っていたが、これらもその一環だろうか。

スタートアップの早い段階は強いリーダーシップをもった起業家が組織を引っ張ることが多い。仲間が増えてくると課題をリフレーミングしながら枠組みを作っていき組織が機能するようにしていくことが必要となり、その後各チームのリーダーとも呼べる人たちを中心とした組織づくりが必要となってくる。ここで難しいのは、周りの人の意見を大事にしようとして聞こうとし過ぎると、自分にキレがなくなると感じることがある。それによって自分らしさを失ってしまうのか。

一方で自分の世界観みたいなものがあるのも環境づくりには重要な気がする。こういうのをthought leadership と言うのだろうか。特に内部の話だけにとどまらず外の人を巻き込むにはそういった力も求められるのかもしれない。

定例会

ハンズオンな経営支援を行なう場合、支援先と行なうことの一つに恐らく必ず定例会というものがある。月次、隔週、または四半期ごとなど頻度はさまざま考えられるが、定期的にMTGを行い抱えている課題や進捗状況などを共有してもらい、対策について練っていく場である。

個人的に定例会において重要と思う点は下記。
1.目標を持っておくこと:出てきた結果を見るだけでなく、当初に目的感や目標をたてておく。当時の想定とどう変わってきたのかから学びを得られることが多い
2.課題を共有してもらうこと:報告会であれば文書でもらえれば済むが、そうではなく組織や経営者が抱えている課題を共有してもらうことが重要。
3.議論の場とすること:課題を共有してもらった後は、それについて議論をできる場にすることが重要。ある意味、支援を行なう側の価値が試される場でもある。課題を共有して終わってしまうというような場合も見られるが、経営者や自分たちが集まれる貴重な時間であり有効に活用するためには、会議の場で行うのではなく事前に情報をもらっておいてアジェンダを考えたり資料を読み込んでいったりといった準備が必要


投資家側からすると情報を共有してもらえる貴重な場であり、また文書のやりとりだけでは難しい議論の場としたり知恵を出し合って課題の整理や解決策を考える場となる。私の経験からすると、多くの起業家にとっても日々忙殺される中で、中長期的な視点や組織を俯瞰してみる機会を設けることは難しくそういった場とすることもできる。とにかく、「報告書発表会」の場にしてしまわないことが重要だと思う。

起業家との信頼関係

投資を行うにあたっては当然だが起業家との信頼関係が重要だ。限られた期間とはいえ少なくとも数年、場合によってはもっと長い期間を一緒にやっていくことになるのだから当然だ。また、投資後の経営支援を考えると自分の時間を相当使うことになる。

信頼って何か、どうやって見極めるのかはとても難しいが、私は二つの軸を持つようにしている。まずは、その人を信用できるかどうか。これはきちんと約束を守れるか、任せたことを行ってもらえるかといった基本的な部分だ。ただし、それ以上に重要なのはもっと人間的な部分。短期間の仕事を任せるのであれば極端な話、信頼がなくても信用があればお願いできるのだが、長期間付き合うとなるとこちらが重要になってくる。それを知るためには、想いやvisionについて教えてもらったり、価値観や人との付き合い方など、人としてその人を知ることを大事にしている。

これは一朝一夕にできることではないので、起業家とそれなりに時間を一緒に使うことが必要となる。抱えてる悩みの壁打ち相手になったり、一緒に事業について考えたりしていく中で、そういったことを感じてくる。投資前に行うデューデリジェンスにおいては財務などのtangibleな情報の精査も重要だが、信頼関係を構築できるか、長い期間をご一緒できるかといった点をお互いに確かめ合うにも有用な期間だと思う。

こういった「ソフト」的な面をどの程度重要視するかは、投資家によってバラツキがあるのではないかと思う。私が属していた組織では日本でも海外でも同じだった。ある時には予算作りを毎晩夜中まで一緒に行ったり、ある時には将来について話したり、いろいろな形で起業家と一緒に時間を過ごした。そういう中で信頼関係を築いていったと思う。

「リーダーシップ」、「マネジメントチームの信頼性」などいろいろな言葉が使われるが、起業家と仕事をする上で、さらにいうとどんな仕事においても重要な点ではないかと思う。

組織作り

組織が成長してくると新たに人が関わるようになる。創業期のメンバーとは違ったモチベーションや考えを持つ人もでてくる。そういった時にどうやって価値観の違う人に同じベクトルを向いてもらい一致団結して事業を行っていくかは多くのスタートアップがいわゆる第二創業期と呼ばれるフェーズに入る際に持つ課題ではないかと思う。

私は、過去にこういった組織をご支援させてもらったことが何度かある。中には、成長に伴って一気に1/3近い新社員を採用したケースもある。問題の種類は違えど、どの組織も何かしらの課題が起きた。創業時からいる社員と新しい社員の意識の違い、意志決定のプロセス、経営陣と社員の距離感などが挙げられる。

仕組みが必要な場合もあれば、仕組み以上に社員同士の距離感を縮めたりコミュニケーションのあり方を変える必要がある場合もある。ただ、ほとんどの場合は両方が必要になると思う。創業時の少ない人数だと阿吽の呼吸や暗黙の了解でできたことがそうはいかなくなる。そうなると明文的なルールやフローが必要となることもある。ものごとが上手く回らないと人間関係がギクシャクする場合もある。そんな時に第三者的な人が話を聞くことが必要な時もある。

また、個々が持つビジョン、モチベーションややりたいことを上手くまとめていくことも必要だ。ただし、気をつけたいのは完全に同一化させようとしないこと、大きな方向性は同じ方向を向いている必要があるが、完全に同じである必要はない。重要なのは、重なり合う部分がありそれを認識できることだと思う。

アーティストと起業家

アーティストと起業家には共通する面が多くあると思う。特に強いパッションを基に何かを創り上げるという点は似ている。

私はYagullというアーティストを支援している。バークリー音楽院を首席で卒業しピアニストとギタリストのユニットで、二人はhug musicという音楽教室も経営している。彼女たちの持つ想いやビジョンの言語化を一緒に行った。ビジョンやコンセプトを言語化し、相手の持つintentionをクリアにしていく、また、そのために必要な道筋を考えるといったことは起業家支援と通ずる点だと感じた。

また、先日東京で行ったライブコンサートでは、アーティストと相談し、彼らの奏でる音楽に説明を加えることでオーディエンスにイメージを沸かせてもらいやすくし曲への共感度を高めるといったことを行った。プロのミュージシャンともなれば音楽を聞くだけで曲の良し悪しや共感度を高めることができるのかもしれないが、一般の人には曲の背景を知ることで入り込み方が変わり距離感をぐっと縮めることができる。

マーケティングや販売、規模が大きくなってくると管理面なども考えなくてはいけない。まさに企業の成長過程と同じである。もともと起業家支援とは違った文脈で始めたが、本質を見ると、世の中のラベリングとは関係なくいろいろなことが見えてきて面白い。

Yagull: https://www.yagull.com/
Hug Music: https://hugmusicny.com/

チーム作り

チーム作りは非常に難しいと思う。創業時の仲間から新たに人が入ってくるようなフェーズになると、必ずしも創業時の思いを100%ともにしている人たちでもなくベクトルを合わせていくのはとても困難で大変なことである。

私がこれまで支援してきた企業や団体でもそれぞれにチーム作りには苦労していた。急拡大したがために古いメンバーと新しいメンバーでの価値観の違いが現れたり、ベンチャーがゆえに柔軟さをもたせてきたところもあり統一されたルールがかっちりあるわけでもなくさまざまな確執が起きたこともある。また、経営側(特に代表)がものごとを決めすぎ、透明性にかけていたため現場との距離感が離れすぎていたこともあった。

こうすれば正解というやり方があるわけではなく、場面に応じて必要とされるものが変わってくる。ルールや意思決定プロセスのような仕組みが必要な場合、コミュニケーションのやり方の変化が必要な場合、意識合わせが必要な場合とさまざまで柔軟に対応しなくてはならない。

多数のメンバーで合意を形成していくというのは非常に難しいが、それを行おうと思うと、一度感情的なことも含めて本音を出し合うこと、その上で合理的なプロセスを皆がオーナーシップを持って作ることが関わるメンバーが納得感を持って合意を形成していくのは重要ではないかと思う。

合宿・オフサイト

企業や組織で合宿やオフサイトを行うことがある。オフサイトとは通常の業務から離れた場所で長い時間を取り、日々の仕事より少し大きな目線でいろいろなことを話し合う機会を設けるために行われる。宿泊して1−2日がっつり行うこともあるし、トピックも組織のミッションのようなものから個人の考えまでさまざまがものが取り扱われる。

私が支援していた組織の管理職の方たちとオフサイトをしたことがある。この組織の場合は、組織は赤字になり社員が足りないという状況で、さまざまな業務が増える中日々の業務に追われ社内のコミュニケーションや社員の目線に少しずつずれを感じておりオフサイトを行おうということになった。

オフサイトは大きな視点で話す分、明確な論点が最初からあるケースは少なくファシリテーションが成否の鍵を生むといっても過言ではないと思う。この時は、私はグループディスカッションの議論のファシリテーションを行なった。ポストイットを使ったり、敢えて話をせずに個々で考える時間を作ったりといろいろ行なった。

普段の会話や議論では出てこない皆が奥底に抱えているような疑問や真の課題を引き出せるところがオフサイトのような場の良いところであり難しさでもあるのではないかと思う。

その後のアクションにまで繋げることが目的の場合、違った観点や意見を持った人たちの合意形成をはかることが最終的には必要となってくる。合意形成を図るために大事なのは意見を出させ議論をしつくせるようにすること、そのために意見を言うことをためらうようなことがない安心感のある場づくりをすることだと思う。最終的には何かの案に収束させるのだが、議論をしつくしていることで当事者意識と納得感が生まれ、これらがあるかないかでその後案をしっかりと実施できるかどうかを分けることになる。

現在も、合宿をいくつか企画中だが、何を目的とするかそのためにはどんな場や議論の方法が良いのか考えている。

経営支援

投資後の経営支援のやり方にはいろいろな意見があると思う。スタートアップはリソースが乏しいし、仕組みもあまり整っていないというのが常である。いろいろな営業資料や社内規程を作ったりすることもあれば、組織作り、戦略、採用、といった大きな仕組みづくりの支援をすることもある。ただ、重要なのは真の課題を拾うことだと思う。本当の課題は表面には現れていないことが多い。それをを拾うためには、経営者との対話を重ね様々な課題を整理して本質的な問題がどこにあるかに気づき・気づいてもらうことが必要となる。それが見えてくれば、解決のためのプロジェクトを考え時間軸や実行者を選定し回していくということができる。

一度、これが問題だと思って取り組もうとしていたことがなかなか進まず困ったことがある。これをやりましょうねと経営者とは合意するのだがその後なかなか手がつけられないのである。経営者は山のような課題とやることを抱える中で優先順位をつけながら物事を行っていかなくてはいけないので本当の課題と思っていなければそれは後回しになっていく。そんなことだったと思う。

私はこれまでスタートアップを支援する中でいろいろな経験をさせてもらったと思う。規程作り、社員採用、組織体制作り、戦略策定、事業撤退を含む事業の整理、財務、予算策定、販売など。また、多くは人間関係問題の悩み相談だったり、コミュニケーションやミーティングのファシリテーションを行ったこともある。

いずれの場合も、取り組み始める前に経営者や関わる人の納得感を作れるか、そしてその場しのぎの対策ではなく長期的に役立っていくものを作れるかが重要だと思う。

仕組みづくりとソフトサポート

起業家支援には大きく二つの側面がある。

一点目は、仕組みを作ること。スタートアップは想いをベースに仲間で始めていることが多い。そこに新たな社員が加わり、売上が作られていき、オペレーションが複雑になってくると、戦略構築、数字の管理、評価や権限分担など組織の管理など仕組みづくりが必要になってくる。オペレーション面だけではなく、会社のビジョン・ミッションやそのためのステップなどを社員全員で共有するためにも、伝える術としての言語化が必要となってくる。

二点目はソフト面でのサポート。想いが強い人が集まるまた、日本のNPOの場合は、企業に比べて決して高水準とはいえない報酬体系(これを変えるべきであるという別問題はあるが今回の論点から外れてしまうためここでは書かない)、IPOなどの将来の大きな報酬の可能性を見込めず、事業や起業家に対する想いで働いている方が多い。
想いが強い人が集まり他に縛るものがないだけにしばしば衝突も避けられない。また、比較的経験が長くない方が多いことも手伝い議論を深めていったり合意形成を行っていくことに長けている組織も稀である。組織内のコミュニケーションが円滑に進むためのサポート、MTGのファシリテート、社員のモチベーションの向上と持続が必要となる。

私は上記は車の車輪のようなものであり、どちらか片一方だけでもうまくいかないと考えている。二点目はタスクベースでの切り出しが難しく専門家やコンサルタントに部分的に行ってもらうこともできないという点から難易度が上がる。ソフト面でのサポートは第三者にはできないという人もいるが、逆に第三者にしかできないこともあるのではないかと思う。当事者同士では感情面なども手伝って難しくなっているコミュニケーションをつなぎ合わせてあげたり整理したりしてあげるのは第三者にしかできないことだ。

また、これを行うためには信頼関係の構築が非常に重要となる。ロジックや仕組みだけではなく、本当にオープンになってもらい人間関係を変えていくためには、安心・安全にものを言える環境があり、本当に抱えている課題を共有してもらい解決策を共に考えること。

私の起業家支援を振り返ると1点目はもちろんだが、2点目を得意としていたのではないかと思う。また、前職を退職する際に一緒に仕事をしていただいた起業家に自分の価値みたいなものについて聞いてみた。戦略づくり、数字づくりや人材採用など仕組みづくりも結構行ってきたのだが、意外とそういった面は出てこず、なんでも相談できた存在や許される空気を作ってくれたといったようなソフト面があげられることが多かった。

仕組みづくりだけでもなく、コミュニケーションコンサルタントでもない存在になれるかどうかが起業家と組織を支援するには重要であり、自分はそういう存在でありたいと思う。