インパクト投資とマイルストーン投資

マイルストーン投資は投資する際によく使われるが、その性質、特にマイルストーンの置き方について考えてみる。

インパクト投資の場合は、社会成果をマイルストーンに置くことがあると思うが、取り組むビジネスや提供資金の性質によって置くべきマイルストーンを見極める必要がある。

企業投資の場合、事業は複数あることがほとんどで、特定の事業があり使うリソースなどもある程度決まっているプロジェクト投資や助成金とは違ってくる。企業投資はそういった資金では拠出目的としにくい間接経費などの先行投資に資金を使うことが可能。ただしこの場合投じた資金によって現れる社会成果の前に、組織づくり、PMF、システム構築など踏む段階が多岐にわたりより複雑になる。おそらく、その中でどこに投資するのが成果をあげるために最も効果的なのかということを投資家と起業家の間で見極めながら資金使途を考えていくことが必要(デューデリジェンス)。この場合、投じた資金がダイレクトに特定の事業に使われるものではないため、現れる成果の距離が遠くなりマイルストーンの置き方は難しくなる。

いわゆる受益者を軸とした社会成果をマイルストーンに置くことも可能だと思うが、その場合次回投資決定の際には目標達成したかどうかという単一的な見方ではなく、投じた資金が効果的に使われたのか、そうでないならその原因はどこにあり次回投資を行うべきかどうかといった総合的な判断が求められると思う。

シンガポールVCモデル

コロナの影響で「シンガポールVCモデル」が今後変わっていくだろう。東南アジアのVCはシンガポールに集中している。日本企業でもシンガポールにオフィスを置いているところはいくつかある。シンガポールでは国内市場は少なく大きな市場は国外にあるため、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシアといった近隣の国を飛び回り投資や経営支援を行うというのが代表的なやり方だ。私がフィリピンで投資していた時もそういったVCの人たちと良く会っていた。ただし、コロナによってそういったやり方は少なくともこれから数年はできなくなる。私が過去に属していた組織があったスイスも似ている。

一方で、雇用形態や肩書きにとらわれない働きかたで働く人が世の中には増えてきている。海外では、比較的若い頃にインパクト投資を経験し、その後別の仕事をしたり独立したりする人も増えてきた。シンガポールから発展途上国に投資をするのではなく、現地でのプロフェッショナルをある種ゆるく繋げるような組織、レガシーな組織ではなくそんな組織形態が可能となるかもしれない。

インパクト投資と投資リターン

IRRは、複利的な要素が入っているためタイムファクターの影響が大きい。これは投資してから回収までの期間が短ければ短いほど値が大きくなることになる。この前提としては、早く返ってくればお金を再投資に回せ、どんどん投資できるので経済的利益が最大化できるということがある。また、IRRだけみてしまうと、期中でも期末でもキャッシュフローがどのように返ってくるかは(上記のタイムファクター以外は)関係ないし、投資規模も関係ない。

IRRのような指標はプロジェクト全体の経済的利益を比較するのには役立つが、それ自体がキャッシュフローを表すものではないため使い方を誤るとミスリーディングになってしまいそうで怖い(そういえば、フィリピンで一緒に投資をしていた仲間が昔同様のことを言っていた)。

インパクト投資のように、必ずしもIRRの最大化のみを良しとしない投資の場合には何を指標にすべきなのか。少なくとも意図的な時間軸をもった(短ければ良しとしないような)キャッシュフローを作っていくべきなのだろうとは思うが、良い解がでてこない・・・。

中立の強み

先日、財団で中立の立場について考え・議論する機会があった。財団は基本的には非営利なので、課題解決やマーケットの発展のための活動を行い、中立な立場であることが多い。市民のものという概念から成り立っているNPOなど非営利団体も当てはまるかもしれない。

マーケットの発展には多数のプレイヤーの存在が不可欠だが、ここのインセンティブを満たせるような状態になるまでは中立的な立場の人が必要に思える(おそらく行政にも当てはまると思う)。ある程度市場が成熟してきて市場の均衡が成り立ってくると良いが、その前段階では個々の役割やinterestにこだわりすぎそのはざまに生まれてくるリスクや負担のギャップを埋めれないと案件や市場が成立してくるのが難しい。

Social Impact Bondと呼ばれる市場はそういった端境期にある。日本で約20、世界でも約140の案件しかまだ作られていないと言われている。黎明期であることもあり上述の中間支援組織と呼ばれるプレイヤーが活躍している。案件形成は決まった型がある訳ではなく思考錯誤で行われており、中立的なプレイヤーへ相談する機会も多々生じる。

中立の立場というのはかがけるミッションが達成されると存在意義がなくなるがそれが故の強みというのもあるのではないかと思う。

Social Impact Bondのあり方についてはThird Sector Capital AsiaのKevinから面白い話を聞いたので別の機会に書きたいと思う。

定例会

ハンズオンな経営支援を行なう場合、支援先と行なうことの一つに恐らく必ず定例会というものがある。月次、隔週、または四半期ごとなど頻度はさまざま考えられるが、定期的にMTGを行い抱えている課題や進捗状況などを共有してもらい、対策について練っていく場である。

個人的に定例会において重要と思う点は下記。
1.目標を持っておくこと:出てきた結果を見るだけでなく、当初に目的感や目標をたてておく。当時の想定とどう変わってきたのかから学びを得られることが多い
2.課題を共有してもらうこと:報告会であれば文書でもらえれば済むが、そうではなく組織や経営者が抱えている課題を共有してもらうことが重要。
3.議論の場とすること:課題を共有してもらった後は、それについて議論をできる場にすることが重要。ある意味、支援を行なう側の価値が試される場でもある。課題を共有して終わってしまうというような場合も見られるが、経営者や自分たちが集まれる貴重な時間であり有効に活用するためには、会議の場で行うのではなく事前に情報をもらっておいてアジェンダを考えたり資料を読み込んでいったりといった準備が必要


投資家側からすると情報を共有してもらえる貴重な場であり、また文書のやりとりだけでは難しい議論の場としたり知恵を出し合って課題の整理や解決策を考える場となる。私の経験からすると、多くの起業家にとっても日々忙殺される中で、中長期的な視点や組織を俯瞰してみる機会を設けることは難しくそういった場とすることもできる。とにかく、「報告書発表会」の場にしてしまわないことが重要だと思う。

ITとインパクト投資


先週、あるカンファレンスに出る機会があった。そこでイスラエルから来ていたスタートアッブの方がCybersecurityとインパクト投資について話していた。インフラ、災害対策など国家レベルでITは重要になり、サイバーセキュリティの重要性も増す。


以前に昔の同僚で今はOmidiyar Networkで働くインド人が来日していた際に食事をしながら話していて、Omidiyarが今最もフォーカスしているのはDigital Identificationという話も聞いた。たしかに、特に発展途上国的な観点でみると、unbankをはじめとして、IDが持てない人は多くいる。こういう人がIDを持てるようになって、銀行口座だけでなく教育、パスポートなどにアクセスできることのインパクトは大きい。


私がフィリピンでインパクト投資を行っていた時にも感じたが、発展途上国では、何かに対してアクセスが持てるかどうかが重要となる。貧困状態にある人はあらゆるものへのアクセスが限られていて、そこから脱する環境がなかったりそもそもそういうことを考えれるような教育を受けれないという負の連鎖がある。


一方で、アメリカのような先進国では、Facebook問題を発端とする個人のプライバシーを守るという観点でDigital IDへの注目は集まっているそうだ。
インパクトを与えるためには、個人の意識変容や行動変容が大きな鍵となるが、technologyは、人の行動変容を一気に変えれるという点で大きなツールだと思う。その意味ではインパクト投資との親和性もおそらく高く、もっと深掘りしたい分野の一つだ。

社会企業と新たな投資手法

最近、シリコンバレーなどでも売上連動型で投資家に利益配分を行うスタートアップ投資が行われていると聞く。

投資ファンドなどの従来のビジネスモデルはマネジメントフィーとキャリーが主流だ。マネジメントフィーは、ファンド金額の◯◯%/年、キャリーは売却した保有株から出るキャピタルゲインの◯◯%といった形でファンドマネージャーは報酬をもらう。

このやり方は、大きな資金規模を必要とする企業やいわゆるユニコーン型の企業向けの投資には合っていると思う。一方で、昨今出てきている社会企業やZebra企業(zebraについては別エントリーを参照)への投資には合わないように思える。急激な成長をえがかないそのような企業だと投資ファンドがキャリーを十分に受け取れなくなり、ファンド自体の持続性に関わってくる。では、そのような企業へ資金を供給するにはどうすれば良いのだろうか。現在は、いろんな試行錯誤が行われていると理解している。アメリカなどで良く聞くとレベニューシェアもその一つだろう。

レベニューシェアの場合、売上をシェアしていくというものなので、企業価値が上がったら投資家に一気に分配するのではなく、成長と共に徐々に分配していくイメージだ。考えたいのは、どの時点から分配するか。通常の投資の場合、投資家としても企業価値をあげることにコミットしているためそれが上がったら利益配分を受けるというのはわかりやすい。例えば、まだ会社に売上がない状態で売上を作ることにコミットしているのであれば、最初から分配ということもありえるが、ただ、その場合、会社は赤字なのに分配をしていくということになる。例えば、キャッシュフローが黒字化したらとか、その投資家との間で目指す売上額など一定の指標を置いて、指標をクリアしたら分配を始めるという方がコンセプトをにもマッチするし投資家にとっても起業家にとってもフェアに思える。

いろんな企業が出てきつつある中で資金供給側もいろんな形があって良いのではないかと思う。

起業家との信頼関係

投資を行うにあたっては当然だが起業家との信頼関係が重要だ。限られた期間とはいえ少なくとも数年、場合によってはもっと長い期間を一緒にやっていくことになるのだから当然だ。また、投資後の経営支援を考えると自分の時間を相当使うことになる。

信頼って何か、どうやって見極めるのかはとても難しいが、私は二つの軸を持つようにしている。まずは、その人を信用できるかどうか。これはきちんと約束を守れるか、任せたことを行ってもらえるかといった基本的な部分だ。ただし、それ以上に重要なのはもっと人間的な部分。短期間の仕事を任せるのであれば極端な話、信頼がなくても信用があればお願いできるのだが、長期間付き合うとなるとこちらが重要になってくる。それを知るためには、想いやvisionについて教えてもらったり、価値観や人との付き合い方など、人としてその人を知ることを大事にしている。

これは一朝一夕にできることではないので、起業家とそれなりに時間を一緒に使うことが必要となる。抱えてる悩みの壁打ち相手になったり、一緒に事業について考えたりしていく中で、そういったことを感じてくる。投資前に行うデューデリジェンスにおいては財務などのtangibleな情報の精査も重要だが、信頼関係を構築できるか、長い期間をご一緒できるかといった点をお互いに確かめ合うにも有用な期間だと思う。

こういった「ソフト」的な面をどの程度重要視するかは、投資家によってバラツキがあるのではないかと思う。私が属していた組織では日本でも海外でも同じだった。ある時には予算作りを毎晩夜中まで一緒に行ったり、ある時には将来について話したり、いろいろな形で起業家と一緒に時間を過ごした。そういう中で信頼関係を築いていったと思う。

「リーダーシップ」、「マネジメントチームの信頼性」などいろいろな言葉が使われるが、起業家と仕事をする上で、さらにいうとどんな仕事においても重要な点ではないかと思う。

インパクト投資とキャリア

先週末インパクト投資の仕事をしたいという20代の人からキャリアについて相談を受けた。彼はアメリカの大学を卒業後コンサルティング会社で仕事をしてきたが、自分のやりたいことはインパクト投資業界にあると思っているとのこと。

彼によると、世界各地で活躍している同世代の日本人同士でグループを作って意見交換を行う場を持っているとのことだった。

私がこの業界に飛び込んだ5ー6年前には少なくとも日本では私の周りではそういった”thinking alike”な人がいなかった。当時の私はビジネススクールの友人や世界と日本の状況のギャップを感じつつ、だからこそ海外に行く決断をしたのだが、彼の話を聞くと時代は変わってきたのだなと思う。

業界に人材が入ってくるようになれば、成果を高めることもでき、資金の流入にもつながり、しっかりとした業界として成り立つようになってくる。何のためかわからないけどお金を多くもらえるからといった軸だけで仕事や人生を決めるのではなく、違った軸を持って人生を歩む人が増えると良いなと思う。

Zebra企業とインパクト投資

昨年、オックスフォード大学で行われたSkoll World Forumに参加した際に、Zebra Unite Groupの方達と知り合う機会があった。先日、News PicksでもZebraについて書かれた記事を見つけ思い出した。

詳しくは、別のBlogでアップされる予定なのでそちらをご紹介したいと思うが、簡単にZebra企業について書きたいと思う。

スタートアップ業界において、急成長する企業はUnicornと呼ばれる。過去にはFacebookやUberなどが代表例だ。Unicornを狙って投資家も投資をする。どこにUnicornがいるかわからないので、多くのスタートアップに資金を出しUnicornが出てくれば投資家も大儲けできるというのがスタートアップ業界のVCの多くのモデルだと思う。

これを否定するつもりはないが、では、Unicornではないがきちんと収益をあげる企業に資金がいきわたるようなエコシステムとなっているのだろうか?短期間で大儲けは狙わないが、堅実に収益を上げているモデルの中には社会やステークホルダーへの影響を考えながらビジネスを行っている企業も多い。

Bridges Ventures U.S.のパートナーと話をした際に、アメリカでもこういった企業への資金の需要と供給にギャップがありまたそこにビジネス機会があるのではと考え事業を始めたと言っていた。

VCファンドもしくはその投資家にとって必要な投資先のスケーラビリティの確保が難しくなってしまうが、スケーラビリティに代わる価値を提供できたらそこに資金を出したいと言ってくれる人はいるのだろうか。またそれはどういったモデルになるのだろうか。