チーム作り

チーム作りは非常に難しいと思う。創業時の仲間から新たに人が入ってくるようなフェーズになると、必ずしも創業時の思いを100%ともにしている人たちでもなくベクトルを合わせていくのはとても困難で大変なことである。

私がこれまで支援してきた企業や団体でもそれぞれにチーム作りには苦労していた。急拡大したがために古いメンバーと新しいメンバーでの価値観の違いが現れたり、ベンチャーがゆえに柔軟さをもたせてきたところもあり統一されたルールがかっちりあるわけでもなくさまざまな確執が起きたこともある。また、経営側(特に代表)がものごとを決めすぎ、透明性にかけていたため現場との距離感が離れすぎていたこともあった。

こうすれば正解というやり方があるわけではなく、場面に応じて必要とされるものが変わってくる。ルールや意思決定プロセスのような仕組みが必要な場合、コミュニケーションのやり方の変化が必要な場合、意識合わせが必要な場合とさまざまで柔軟に対応しなくてはならない。

多数のメンバーで合意を形成していくというのは非常に難しいが、それを行おうと思うと、一度感情的なことも含めて本音を出し合うこと、その上で合理的なプロセスを皆がオーナーシップを持って作ることが関わるメンバーが納得感を持って合意を形成していくのは重要ではないかと思う。

主観性と客観性

仕事においては、主観性と客観性を持つことが大事だと感じる。まず、現状に関して客観的な情報をなるべく多く集め、いろんな角度から考えてみる。ただし、客観的分析だけではものごとは決まらない。もちろん、客観的にいろいろな要素を分析することは非常に重要なのだが、客観的に表しきれないこともあるし、客観的分析を経た後に主観的に一方の立場をとったり何かを決めたりすることでものごとは進むし議論を行うこともできる。

昨日、インパクト投資における投資基準について議論する機会があった。インパクト投資において、投資先が作ろうとしているインパクトや社会性というものは客観的にすることが非常に難しい。でてきたインパクトを客観的に測るということはできるかもしれないが、起業家や社員の人たちが作ろうとしているインパクトというのは彼らの意図でありとても主観的なものだからだ。ただ、ここで重要なのは客観性にこだわることではなく、起業家の意図にいかに共感できるか、同じ世界を作っていこうと思えるかという極めて主観的なものとなると思う(これはインパクト投資に限らないと思うが)。

可能なかぎり集めた客観的な情報をdigestした上で、決断/判断をする際は主観を持ちさまざまな人とその主観をぶつけ合い決めていく。こういったプロセスを行ってものごとを決めていくことを私は過去に学んだが、こうしたプロセスを経ることができないと決断への責任感がなくなり誰が決めたのかわからなくなってしまうのかなと思う。

投資クライテリア

投資をする際のクライテリアというものがある。代表的なものだと経営陣のリーダーシップ、ビジネスモデルなど。投資家によってこういうものを作る人たち、そうでない人たちがいるが、個人的には作っておくと良いと思う。本当に全てが通じ合った仲間だけで投資を行っていれば良いのだが、複数の人間が集まり始めると少しずつ意識が違ったりする。案件を多数見始めるといろんなタイプの案件や情報が入ってくるので、その際に常に立ち帰れる軸を持っておくと有益である。

現在、投資先経営者とこういったクライテリアを作っている。昨日、その経営者との会議の中でクライテリアの必要性について議論する機会があった。自分の過去を振り返ってみると、投資先DD中に自分たちのクライテリアとの合致性について時間を使って考えたことがある。世の中完璧な人や会社などはないので、DDを行なっていると当然色んな欠点や弱みも見えてくる。ただ、そういった際に自分たちが大事にしているものとの一致性や改善性があるのかを考える際に役に立った。

いくつか実績を積んでマーケット状況をもわかってきたころ、新規投資先を探していくのに自分たちのクライテリアで良いのか見直した時期もあった。指針を考えるためには役に立ったと思う。

また、投資後に振り返る際の観点としても有効だ。振り返りには成功か失敗かといった単純なものではなく、当初の仮説としてどういう見立てをしておりそれが実際どうだったのか、また仮説と違ったのであればそれはなぜ起きたのかといったことをラーニングすることが大事だと思う。

インパクト投資を経済的に成り立たせるためには

最近考えていること。投資モデルとインパクト投資の関係。投資モデルは、規模の利益が成り立つ市場、大きな資金供給量があって成り立つモデルだなあと思う。これがインパクト投資でも成り立つのか。

今の構造だと経済的に成り立たない:規模が小さく、リターンが低いので従来のmanagement feeモデルが成り立たない。投資は、投資を行う人に依存し、レバレッジさせて一人当たり大きな金額を扱うモデル(知識集約型)。人がレバーとなっていることからいたずらに人を増やせない。インパクト投資を成り立たせるためには、規模を大きくするか、別の収入源を確保するかしかない。

結局バリューチェーンのどこかで労働集約的に人を増やすしかなく、投資規模を大きくするということは、投資先でより多くの人を増やすことを意味する。

別の考え方としては、コストを圧縮し単価あたりの利益を大きくすることが考えられる。人を増やす代わりにテクノロジーの導入によりコストを抑えることができる。

そうするとインパクト投資を経済的に成り立たせるためには、下記どちらかということになってくる。

1.規模が大きくなる市場 

2.テクノロジーを使って従来のコスト構造を革新的に変えれるような構造の業態

結局、従来の投資と似たような考え方になってくると思うのだが、これを変えるような革新的なやり方はあるのだろうか。

インパクト投資のジレンマ

先週、社会的投資を行っている投資先との定例会で今後どのようにインパクト/事業を拡大させていくべきかという話をした。

投資の活動自体は投資担当者など人が行うものであり、投資後の経営支援など一件の投資にかけるリソースが多くなればなるほど人への依存性は高まり”人”がボトルネックとなる。では、人を容易に増やせるかというとかけれる資金の問題であったり、能力を持った人を集めれるかという問題がありなかなか難しい。

一件の投資にかけるリソースをなるべく減らしたくさん数を打ち、その中で一件、二件の大成長を狙うという方法も考えられるが(VCでこういうモデルを採用しているところもある)、社会的投資の投資先に多い地域や社会に影響が大きいような投資先の場合そういった目線で投資を行うことが良いとは思えない。

一件あたりの投資金額を大きくするというのは一つの方法。金額を大きくするということは、それを受け止めれる投資先を対象にするということであり、つまり投資先の規模(人数など)が大きくなる。自分のところで増やすことが難しい人的資源を投資先の方で増やそうということである(自分のところの問題が資金でないという前提だが)。または、投資先側で人を増やすのではなくテクノロジーを活用するという考え方もある。人を増やすのではなくテクノロジーで代替できる仕事であればレバレッジをかけた成長が容易となる。ただしこれは(少なくとも現在では)人の創造性や能力に依存しないような、テクノロジーが担える仕事の枠組みが必要。投資という仕事では中々難しい面があるが投資先にそういう企業があれば投資のインパクトを大きくすることができる。

投資金額を大きくする以外に、今のところ考えられるのは、他者との協業というところだろうか。能力を持った人が他者にいるという前提が必要となるが、他者と協業しすることで拡大というものは可能になるかもしれない。

こういった議論は、私の前職でも行ったことがある。投資金額を大きくするという議論があったのを覚えている。過去に私が働いた組織では、投資金額を大きくする方向に舵をきったところもあった。世界のインパクト投資やベンチャーフィランソロピーの業界ではこれが大きな流れとなっている。こういう戦略をとるところが出てきても良いのだが、そのまじゃくに合わなくなってくる企業や団体はどうなるのかという点はエコシステム全体として考えなくてはいけないのではないだろうか。

インパクト投資とロジックモデル

インパクト投資の世界にロジックモデルという手法がある。私が大学院時代に学んだKellogg Foundationの資料がよくまとまっており、日本語だと日本財団が出している資料も分かりやすい。ロジックモデルでは組織の活動が影響を与える受益者ごとにInput, Activity, Output, Outcomeといった要素に分け、それらがどのように起こっていくのかをロジカルに捉え表していく。現在の活動や影響だけでなく未来におこるべくことも考えて表す。

インパクト評価という言葉がNPOや社会的投資の世界でもより一般的に使われるようになりロジックモデルを見る機会も多くなったが、使われ方には大きく二つの流れがあると感じている。1つ目はできるだけ精緻・正確に組織活動が与えるインパクトを表そうというもの。二つ目は、精緻度よりも組織の意図や方向性を明確にしようというもの。

私が実践してきたのは主に後者だ。営利、非営利に関係なく、組織のVision、また特にそこに至るまでのステップや目標というのは必ずしも経営者自身でさえ明確にもててないことは多い。ロジックモデルの一つの利点はそういったことを言語化していくことで組織が向かうべく方向を明確化し経営者また関係者で本当に理解することにある。

正確性というのは時として重要であるが、そこにとらわれすぎると、評価できる活動とできない活動があるのではないか、主観的になるのではないか、作ったロジックモデルから活動が逸れ内容にこだわるべきではないかいった議論に陥ることがある。正確性を追求することが目的となり、組織経営に活かして活動を改善するといったような本来の目的とから離れてしまう。

どんな世界を創りたいか

投資先を通じてどんな世界を創りたいかと考えることがこの仕事の大変な点でもあり醍醐味の一つだと思う。事業を創っているのは起業家や社員の方たちで彼らが主体であるのだが、主体性なく彼らに乗っかるのではなく、彼らの描いているものを感じながら自分としてどういう世界観を作っていくかということが大事だと思う。投資家と起業家がお互いにその世界観に共感した時に投資や経営支援が実行され本当に意味のあるものになっていくと思う。逆に言うと、そういったもの無くしては損得やマネーゲームのような話になってしまい本当の意味での協業はできない。

上記を表すものとして、投資前に投資先候補の起業家に意向表明書を書いたことがある。英語ではLetter of Intentとも呼ばれる。朝6時から近所のスターバックスにこもり、自分が理解した起業家の世界観、自分たちの持つミッションと世界観、そのためにすべきことととこちらから提供できることなどを書いた。それまでもLOIはたくさん書いたことがあったがもう少し形式的だったりテクニカルなものが多かったように思うが、その際は主観を込めて書き起業家からも受け入れられた。

世界観というところでもう一点書くとすると、インパクト投資やVenture Philanthropyを通じて何が作りたいかという視点も大事だと思う。同じような仕事を続けていくと、なんのためにやっているんだろうと思うことが出てきたり、どんな仕事に取り組むべきかと考える時に主体性がでてこなくなったりもする。時々一歩引いて、大きな視点や長い時間軸でものごとを考えることで行っている仕事の意味やその先に創りたいものが見えてくることがある。

仕組みづくりとソフトサポート

起業家支援には大きく二つの側面がある。

一点目は、仕組みを作ること。スタートアップは想いをベースに仲間で始めていることが多い。そこに新たな社員が加わり、売上が作られていき、オペレーションが複雑になってくると、戦略構築、数字の管理、評価や権限分担など組織の管理など仕組みづくりが必要になってくる。オペレーション面だけではなく、会社のビジョン・ミッションやそのためのステップなどを社員全員で共有するためにも、伝える術としての言語化が必要となってくる。

二点目はソフト面でのサポート。想いが強い人が集まるまた、日本のNPOの場合は、企業に比べて決して高水準とはいえない報酬体系(これを変えるべきであるという別問題はあるが今回の論点から外れてしまうためここでは書かない)、IPOなどの将来の大きな報酬の可能性を見込めず、事業や起業家に対する想いで働いている方が多い。
想いが強い人が集まり他に縛るものがないだけにしばしば衝突も避けられない。また、比較的経験が長くない方が多いことも手伝い議論を深めていったり合意形成を行っていくことに長けている組織も稀である。組織内のコミュニケーションが円滑に進むためのサポート、MTGのファシリテート、社員のモチベーションの向上と持続が必要となる。

私は上記は車の車輪のようなものであり、どちらか片一方だけでもうまくいかないと考えている。二点目はタスクベースでの切り出しが難しく専門家やコンサルタントに部分的に行ってもらうこともできないという点から難易度が上がる。ソフト面でのサポートは第三者にはできないという人もいるが、逆に第三者にしかできないこともあるのではないかと思う。当事者同士では感情面なども手伝って難しくなっているコミュニケーションをつなぎ合わせてあげたり整理したりしてあげるのは第三者にしかできないことだ。

また、これを行うためには信頼関係の構築が非常に重要となる。ロジックや仕組みだけではなく、本当にオープンになってもらい人間関係を変えていくためには、安心・安全にものを言える環境があり、本当に抱えている課題を共有してもらい解決策を共に考えること。

私の起業家支援を振り返ると1点目はもちろんだが、2点目を得意としていたのではないかと思う。また、前職を退職する際に一緒に仕事をしていただいた起業家に自分の価値みたいなものについて聞いてみた。戦略づくり、数字づくりや人材採用など仕組みづくりも結構行ってきたのだが、意外とそういった面は出てこず、なんでも相談できた存在や許される空気を作ってくれたといったようなソフト面があげられることが多かった。

仕組みづくりだけでもなく、コミュニケーションコンサルタントでもない存在になれるかどうかが起業家と組織を支援するには重要であり、自分はそういう存在でありたいと思う。