起業家との信頼関係

投資を行うにあたっては当然だが起業家との信頼関係が重要だ。限られた期間とはいえ少なくとも数年、場合によってはもっと長い期間を一緒にやっていくことになるのだから当然だ。また、投資後の経営支援を考えると自分の時間を相当使うことになる。

信頼って何か、どうやって見極めるのかはとても難しいが、私は二つの軸を持つようにしている。まずは、その人を信用できるかどうか。これはきちんと約束を守れるか、任せたことを行ってもらえるかといった基本的な部分だ。ただし、それ以上に重要なのはもっと人間的な部分。短期間の仕事を任せるのであれば極端な話、信頼がなくても信用があればお願いできるのだが、長期間付き合うとなるとこちらが重要になってくる。それを知るためには、想いやvisionについて教えてもらったり、価値観や人との付き合い方など、人としてその人を知ることを大事にしている。

これは一朝一夕にできることではないので、起業家とそれなりに時間を一緒に使うことが必要となる。抱えてる悩みの壁打ち相手になったり、一緒に事業について考えたりしていく中で、そういったことを感じてくる。投資前に行うデューデリジェンスにおいては財務などのtangibleな情報の精査も重要だが、信頼関係を構築できるか、長い期間をご一緒できるかといった点をお互いに確かめ合うにも有用な期間だと思う。

こういった「ソフト」的な面をどの程度重要視するかは、投資家によってバラツキがあるのではないかと思う。私が属していた組織では日本でも海外でも同じだった。ある時には予算作りを毎晩夜中まで一緒に行ったり、ある時には将来について話したり、いろいろな形で起業家と一緒に時間を過ごした。そういう中で信頼関係を築いていったと思う。

「リーダーシップ」、「マネジメントチームの信頼性」などいろいろな言葉が使われるが、起業家と仕事をする上で、さらにいうとどんな仕事においても重要な点ではないかと思う。

インパクト投資とキャリア

先週末インパクト投資の仕事をしたいという20代の人からキャリアについて相談を受けた。彼はアメリカの大学を卒業後コンサルティング会社で仕事をしてきたが、自分のやりたいことはインパクト投資業界にあると思っているとのこと。

彼によると、世界各地で活躍している同世代の日本人同士でグループを作って意見交換を行う場を持っているとのことだった。

私がこの業界に飛び込んだ5ー6年前には少なくとも日本では私の周りではそういった”thinking alike”な人がいなかった。当時の私はビジネススクールの友人や世界と日本の状況のギャップを感じつつ、だからこそ海外に行く決断をしたのだが、彼の話を聞くと時代は変わってきたのだなと思う。

業界に人材が入ってくるようになれば、成果を高めることもでき、資金の流入にもつながり、しっかりとした業界として成り立つようになってくる。何のためかわからないけどお金を多くもらえるからといった軸だけで仕事や人生を決めるのではなく、違った軸を持って人生を歩む人が増えると良いなと思う。

組織作り

組織が成長してくると新たに人が関わるようになる。創業期のメンバーとは違ったモチベーションや考えを持つ人もでてくる。そういった時にどうやって価値観の違う人に同じベクトルを向いてもらい一致団結して事業を行っていくかは多くのスタートアップがいわゆる第二創業期と呼ばれるフェーズに入る際に持つ課題ではないかと思う。

私は、過去にこういった組織をご支援させてもらったことが何度かある。中には、成長に伴って一気に1/3近い新社員を採用したケースもある。問題の種類は違えど、どの組織も何かしらの課題が起きた。創業時からいる社員と新しい社員の意識の違い、意志決定のプロセス、経営陣と社員の距離感などが挙げられる。

仕組みが必要な場合もあれば、仕組み以上に社員同士の距離感を縮めたりコミュニケーションのあり方を変える必要がある場合もある。ただ、ほとんどの場合は両方が必要になると思う。創業時の少ない人数だと阿吽の呼吸や暗黙の了解でできたことがそうはいかなくなる。そうなると明文的なルールやフローが必要となることもある。ものごとが上手く回らないと人間関係がギクシャクする場合もある。そんな時に第三者的な人が話を聞くことが必要な時もある。

また、個々が持つビジョン、モチベーションややりたいことを上手くまとめていくことも必要だ。ただし、気をつけたいのは完全に同一化させようとしないこと、大きな方向性は同じ方向を向いている必要があるが、完全に同じである必要はない。重要なのは、重なり合う部分がありそれを認識できることだと思う。

アーティストと起業家

アーティストと起業家には共通する面が多くあると思う。特に強いパッションを基に何かを創り上げるという点は似ている。

私はYagullというアーティストを支援している。バークリー音楽院を首席で卒業しピアニストとギタリストのユニットで、二人はhug musicという音楽教室も経営している。彼女たちの持つ想いやビジョンの言語化を一緒に行った。ビジョンやコンセプトを言語化し、相手の持つintentionをクリアにしていく、また、そのために必要な道筋を考えるといったことは起業家支援と通ずる点だと感じた。

また、先日東京で行ったライブコンサートでは、アーティストと相談し、彼らの奏でる音楽に説明を加えることでオーディエンスにイメージを沸かせてもらいやすくし曲への共感度を高めるといったことを行った。プロのミュージシャンともなれば音楽を聞くだけで曲の良し悪しや共感度を高めることができるのかもしれないが、一般の人には曲の背景を知ることで入り込み方が変わり距離感をぐっと縮めることができる。

マーケティングや販売、規模が大きくなってくると管理面なども考えなくてはいけない。まさに企業の成長過程と同じである。もともと起業家支援とは違った文脈で始めたが、本質を見ると、世の中のラベリングとは関係なくいろいろなことが見えてきて面白い。

Yagull: https://www.yagull.com/
Hug Music: https://hugmusicny.com/